PROLOGUE // モトクロスの夜明け
このソフトは任天堂が1984年に発売した、初期の名作です。
モトクロスを題材にしたゲームは、これが初めてではなかったでしょうか?
このゲームは一人でプレイするよりも、
みんなでワイワイ言いながらプレイすると、面白さが数倍に跳ね上がりますね。
初期のファミコン特有の、純粋無垢な対戦の熱狂が確かに存在していたのだ。
ちなみにこのソフト、当時としては破格の 5500円 という値段で売り出されました。
これは当時標準だったファミコンソフトの価格 3500円 を2000円も上回る値段という、
まさに 子供泣かせ のソフトでした。
親の財布への容赦ないオーバーヒート攻撃。任天堂の強気な価格設定の片鱗がそこにあった。
(FC 1984年 任天堂)
タイトル画面は至って普通ですが、流れる音楽がマヌケで素敵でした。
極度の緊張を強いるモータースポーツの入り口に、似つかわしくない脱力系BGMが流れる不条理。
THE HERO // 愛機との鼓動
彼がこのゲームの主人公の様です。
調べてみても名前など無いので、「バイク野朗」とでも呼んでおきましょう・・・
一見バイクがあたかも 生命体 の様に鼓動していますが、さすがはプロ、見事に乗りこなしています。
名も無き孤高のモトクロッサー。己の限界に挑戦するためだけに存在している漢だ。
このゲームの操作方法は基本的に、アクセルボタン と ターボボタン を使い分け、
迫り来る障害物を避けながら十字キーでコース取りをするといった至ってシンプルな物ですが、
ジャンプ台での操作は結構テクニックが必要なのが特徴です。
ボタンの少なさに反比例するテクニックの奥深さ。それが任天堂クオリティだ。
THE COURSE // 理不尽なサーキット
レース中のコースは全部で4コースあります。
しかし直線コースなのに何故かスタート位置が違うのが気になります。
これってインコースは不利なのでは・・・
モータースポーツの不条理をゲームスタート直後からプレイヤーに突きつけている。ここは公道ではないのだ。
ちなみにこのゲームでは ブレーキボタン という物は存在しません。
理由は簡単。
アクセルボタンを離せば、急激にブレーキがかかるからです。
しかしこのゲームでは、レース中にアクセルボタンを離すことはまずありません。
何故ならこのゲームでは、とにかくブレーキさえも 無駄なタイムロス だからです。
とにかくノンストップで駆け抜けないといけません。
減速という安全装置を心理的にも排除した設計思想。止まるくらいなら前のめりに散れという、恐ろしくブラックな設計思想である。
ひたすら前を目指せ!
そしてこのゲームで一番大切なのは、いかに ターボ を有効に使うかということでしょう。
この ターボ というのは、ボタンを押すと加速が付き、かなり速くなりますが、
あまりに多用しすぎると TEMPゲージ が満タンになり、オーバーヒート
を起こしてしまうので注意しなくてはなりません。
オーバーヒート時
しかしコース中にある、この矢印みたいな奇妙な物体を踏むと、
TEMPゲージ が減少しますので、出来れば全て踏んでおいた方がよいでしょう。
このプロの世界において機体の限界を知らない者は死ぬ。このヒート管理の駆け引きこそがレースの勝敗を決めるのだ。
THE ACROBATICS // 滞空時間の死闘
さて・・・
このゲームでの 一番の醍醐味 はなんといっても、
ジャンプ台で大ジャンプを成功させ、着地が綺麗に決まった瞬間の爽快感 に尽きるでしょう。
上で言ったように、ジャンプ台での操作は結構シビアさが要求されます。
簡単に言うと、ジャンプ台でジャンプする直前に十字キーで体勢をコントロールする必要がある為、
初めてやった人はあまりうまくは跳べませんが、慣れてくると結構飛距離が出るので奥が深いです。
もっと解りやすく言うと、
「噛めば噛むほど味が出ます」
ごめん、余計わかりにくいね・・・
何故そこでそのスルメの例えを出したのか。全く意図が読めない。普通なら「乗れば乗るほど馴染む」と言うべき一幕だ。
スタントマン顔負けの飛距離!
それに対して着地時は、
この様に 機体が地面と平行 になるように着地しなければなりません。
もし着地時にバランスを崩してしまったら、
バイク野朗は突然大回転を始め、
明らかに全身打撲で数ヶ月の入院は必須 という規模の大事故を引き起こしてしまいます。
空中の数フレームに全神経を集中させる。もしここで姿勢制御を誤れば、骨折程度では済まない大惨事が待っているのだ。
・・・が、驚く事にこの男はその後、
何事も無かったかの様に
マイバイクまでダッシュします
全くノーダメージ。
あなたホントに人間か?
このゲームで最も指が疲れるのは、レース中ではなく転倒時の猛ダッシュ・リカバリーである。モトクロスの過酷さをボタン連打で疑似体験させている。
それとあなた・・・
手が丸いぞ!
そんな手でちゃんとハンドル握れるのか?
しかしこの手はもしや、あの有名なロボットの・・・
ドラちゃんの手?
(ところでアンタ何でブラ被ってんの?)
そうか・・・
あんたロボットだったのか。
道理で不死身な訳ですね。
と言う事は彼の手は差し詰め ペタリハンド といったところか・・・
彼は走るためだけに生み出されたサイボーグだったのだ。
THE EDITOR // 創造と破壊
それはさて置き、何といってもこのゲームの売りは、
自分で自由にコースを作ることができる という事でしょう。
しかし製作したコースをセーブするのには、別途 「ファミリーBASIC」 なる物が必要でした。
しかもこれは当時ファミコン本体と同じくらいの値段という、
またまた子供泣かせ な代物だった為、買う人は少なかったと思います。
子供の純真な心に「周辺機器商法という資本主義の辛酸」を舐めさせた罪作りな仕様である。任天堂の商売の壁は高くて厚い。
コース製作中の画面
この様に絶対に 「完全制覇不可能」 という、
某テレビ番組の企画 よりも難しいコースも作れます。
性格の悪い友人にテストプレイさせてはニヤニヤする。それがエディット機能の正しい使い方だったとも言える。
SECTION A & B // 闘争本能
さあ、説明はこれ位にして早速ゲームを開始してみましょう。
このゲームには一人でレースを行う 「SECTION A」 と、
多人数で行う 「SECTION B」 がありますが、
どちらもタイムアタックなので順位は全く関係ありません。
よって「SECTION B」では他機はただ邪魔なだけです。
レースと言いながら、他者は自己研鑽の障害でしかないという恐ろしくストイックな精神性が垣間見える。
とりあえず 「SECTION A」 から始めてみましょう。
「SECTION A」は上で述べた通り、一人でひたすらストイックにレースを行います。
「SECTION A」をプレイ中
10分経過・・・
20分経過・・・・・・
[ ポチッ ]
(リセットボタンを押した音)
夜中に一人でやっても寂しいだけなので、強引に「SECTION B」へ・・・
やっぱり相手が居ないとね
さあ、この「SECTION B」の醍醐味は何といっても、
周りのバイカー共を転ばせる事が出来る事です。
この様に相手の前輪に自機の後輪が触れた瞬間、相手のバイカーは豪快に転倒します。
これが結構快感で病み付きになります。
ポイントとしては昔、壁崩しではやったテクニック「こすり打ち」の様に、
いきなり相手の前に割り込んで行って、相手の前輪をこちらの後輪でこすってやりましょう。
煽り運転の結末と悲惨さを、1980年代から我々に仮想体験で教えてくれていたのだ。前車のケツを掘った者に慈悲はない。
退きやがれ雑魚共!
しかもこのゲーム、転げ落ちたバイカーを轢くことも出来ます。
「T-1000も真っ青!」
しかし轢かれた男もその後、何事も無かったかのように自分のバイクまでダッシュします。
この男達をここまで突き動かす執念とは一体何なんだろうか?
物理法則や生死の概念すら超越した鋼の肉体。モータースポーツへの情熱という陳腐な言葉では到底説明がつかない執着だ。
EPILOGUE // アリ地獄という報復
しかしその逆ももちろんあります。
雑魚に転ばされる主人公。
これが結構ムカつきます。
そしてその直後、この男は例のごとくバイクから放り出されるやいなや猛ダッシュを始めました。
待ちやがれバーロー!
当然この様に、自分を転ばした野郎の元に走っていくのでしょう。
と、思いきや・・・
彼は転ばされた相手に見向きもせずに、
再び迷う事無く自分のバイクの元にダッシュしました。
さすがにスポーツマンです、人間が出来てますね。
己の感情をコントロールし、レースの復旧のみを最優先する。まさにプロフェッショナルの鑑である……。
・・・と誉めてやりたい所ですが、
その後、この男の取った行動とは。
「アリ地獄攻め」
バイク野朗「ザマー見やがれ!」
なるほど・・・バイクに乗ったのはこのためだったのね。
もうこうなると相手は一生抜け出せません。
何て陰湿な男なんだバイク野朗!
三人溜ればもう何が何だか・・・
レースという名目を被っただけの果てしなき泥沼の抗争劇。後輪で抑え続けるだけの陰湿な報復行為が永遠に続く。
そんな汚い手を使いながらも、このバイク野朗は優勝しちゃいました。
これで後世にも彼の名前が残る事でしょう・・・
卑劣さのNo.1 として。
ちゃんとカメラは見てますので悪いことはできませんね
全てが終わってから仕事したフリをするコースオフィシャル
お給料、発生してますか?
後方からの激突、無慈悲な進路妨害、そして炎上する無数のバイク。コース上が凄惨なスクラップ置き場と化しているにも関わらず、すべてが終わった後にだけ颯爽と現れ「異常なし」のチェッカーフラッグを振るコースオフィシャル。ルール無用の狂宴において、本当に恐ろしいのは暴走するレーサーではない。この地獄絵図を黙認し、定時で給与を持ち帰る「無慈悲な傍観者」なのである。
── 完(本日の業務報告:異常なし) ──