PROLOGUE // 伝説のゲーム
1989年7月27日── 任天堂により一本のRPGが世に送り出されました。
発売から今も尚、多くの人に愛され──
ファミコンNo.1ソフトに挙げる人も多く──
ゲーム中の音楽が音楽教科書にも載ったという──
伝説のゲーム
それが
MOTHER
です。
それもそのはず、シナリオを手がけたのは糸井重里さん。
音楽にはムーンライダース host 鈴木慶一さん。
ディレクターにはマリオの生みの親宮本茂さんが参加しています。
錚錚たるメンバーです。
ゲーム一本のスタッフロールに、日本のサブカルチャー界の重鎮が3人も並ぶ異常事態。現代で例えるなら、宮崎駿が脚本を書き、久石譲が音楽を担当し、任天堂の宮本茂がディレクションするようなものだ。いや待てよ…宮本茂は本人だった。
糸井重里さんというと・・・・
「バス釣り好きのおっちゃん」
というイメージが有るみたいなのですが、昔にゲームも作ってたんですよ。
正確に言えば、バス釣りゲームも作っていた。つまり彼にとってゲーム制作とは趣味の延長であり、MOTHERもバス釣りも同一線上にある。この男のスケール感は、常人の物差しでは測定不能である。
これがそのMOTHERのパッケージです。
MOTHERのパッケージ
凄くシンプルです。
真っ赤なパッケージに一文だけ── MOTHER。
外見だけ見ると凄く怪しいパッケージですね・・・
赤い箱に英語が一語。これは商品パッケージではない。ラブレターである。受け取った少年少女は、開封前に既に心を奪われていたのである。
オープニング画面
オープニング画面も至ってシンプルで好きです。
PROLOGUE // 物語のはじまり
肝心のゲームのストーリーは──
1900ねんだいの はじめ
アメリカのいなかまちに くろくものようなかげがおち
ひとくみの ふうふが
ゆくえふめいに なりました。
おっとのなは ジョージ。 つまのなは マリア。
2ねんほどして ジョージは いえにもどりましたが
どこにいっていたのか なにをしていたのかについて
だれに はなすこともなく
ふしぎなけんきゅうにぼっとうするようになりました。
つまの マリアのほうは
とうとう かえっては きませんでした。
そして時は流れ──1988年 マザーズディのまちはずれ。
主人公の12歳の少年「ニンテン」は家で突然ポルターガイスト現象に襲われます。
電気スタンドやキューピー人形が襲ってきたのです。
ポルターガイスト現象。本来なら大人が対処すべき超常事態だが、この世界では12歳の少年がバットで解決する。この世界では、労働基準法がまず幽霊に負けている。
何とか襲ってきた人形を倒すとニンテン少年のパパから電話がかかってきます。
事情を説明すると──
「ニンテンよ・・・今こそ冒険の時だ!!」
と突然言われ、「ボロのバット」を片手に異変の原因を探す旅に出たのです。
12歳の息子に対し「冒険の時だ」と告げ、バットを持たせて家から送り出す。現代の児童相談所なら通報案件だが、ファミコン時代ではこれが英才教育である。
証拠写真
かなり熱血漢な父親なのでしょう・・・
ちなみにニンテン少年の父親はゲーム中に一度も姿を現しません。
ですから声のみ(文字のみ)の出演です。
よほど多忙な日々を送ってる様です・・・
顔も見せず、電話一本で息子を危険な旅に送り出す。この父親の正体は、おそらくどこかの企業の中間管理職だろう。リモートワークの先駆者と言える。
その割には2時間以上プレイしてると
「休憩してはどうかね?」
と電話をよこして来ます。
バットを持たせて冒険に送り出しておきながら、2時間後に休憩を勧めてくる。矛盾の塊のような親心。怪物との接触は推奨、ブルーライトの浴び過ぎは非推奨なのである。
結構おせっかい焼きな父親です。
THE MEMBERS // 仲間達の集合風景
何はともあれニンテン少年は旅に出ます。
颯爽と歩くニンテン少年
颯爽と歩くニンテン少年。
でもね、後ろから見ると・・・
欽ちゃん走り
欽ちゃん走りです(笑)
両腕を振り子のように振り、足を交差させながら斜め方向に疾走する独特の走法。萩本欽一 の持ちネタとして知られるあのフォームを、まさかファミコンのRPGで目撃するとは思わなかった。世界を救う物語でありながら、足元だけは完全に昭和のゴールデンタイムである。
しかもこのゲーム、珍しいことに斜め移動ができるのです。
何たる偶然・・・。
そして、欽ちゃんニンテン少年は一緒に冒険してくれる仲間と出会っていきます。
序盤で居なくなるピッピさん
発明大好きロイド君
ちなみにゲーム中にはロイド君の父親も登場します。
「私はロイドの父です」
何故かバケツの中に入ってますけど・・・
「私はロイドの父です」と名乗りながらバケツに収まっている男。彼がどういう経緯でバケツに入るに至ったのか、ゲーム中では一切説明されない。されなくて正解である。
教会の少女アナさん
そして・・・
不良少年テディ君
・・・あんただけイカツすぎ。
その歩き方は何なのさ?
本当に少年ですか?
既に凄い貫録ですよテディ君・・・
どこで成長曲線を間違えた?
後ろ姿も他のメンバーは欽ちゃん走りなのに──
彼だけヤンキー歩きです。
左からニンテン、ピッピ、ロイド、アナ、テディ ──── ↑彼
どうやら縛られるのがイヤみたいですね彼・・・
「ケッ、欽ちゃん走りなんかやってらんねーぜ!」
実は彼、過去に北斗の拳に出演してたんですよ。
「汚物は消毒だ~」
名台詞を残したグラサンの雑魚。
違いましたっけ?
でも似てませんか・・・?
ケンシロウに打たれるテディ君
北斗の世界観の方がどうやら彼にはマッチしてるようですね。
どう見ても RPG の仲間ではない。世紀末覇者の右腕として「ヒャッハー」と叫んでいる側の方だ。糸井重里 がいかなる思想で彼をパーティに編入させたのか。もし当時の企画会議の議事録が残っているなら、国会図書館での永久保存を強く推奨したい。
話が逸れた様なので元に戻します。
(あんたが勝手に暴走したんだろ?)
THE WORLD // 果てしなきマップと優しい世界
このゲームMOTHERはマップがものすごく広いことで有名です。
どの位広いかと言うと
29型テレビに換算して東京ドーム3個分
・・・らしいです。
29型テレビで東京ドーム3個分。この換算式を理解できる人類は、おそらく糸井重里本人しかいない。残された 我々は、ただ静かに「とにかく広い」と受け止めるしかないのである。
広すぎです。
隅々まで歩くのはほぼ不可能ですね。
変な裏道に迷い込んでしまうと迷子にさえなります・・・
そんな広いマップを敵と戦いながら進んでいくわけですが、このゲーム「MOTHER」では敵に限らず──
死者は出ません
敵を倒しても──
我に帰った敵
我に帰ったり──
大人しくなった敵
大人しくなったりするだけです。
敵を倒しても死なない。我に帰るか、大人しくなるだけ。つまりMOTHERの戦闘とは、武力による説得である。国連も見習うべき紛争解決メソッドがここにある。
たとえ味方のHPが0になっても、病院で治療費を払えば元気になります。
HPゼロからの完全復活がわずか480ドル。医療費で破産者が続出する現実のアメリカから見れば破格の安さである
この様にMOTHERの世界ではプレイ中は誰も亡くなりません。
一人を除いては・・・
THE SAMURAI // 名もなき侍、フライングマン
此処に一人の男ありき・・・
彼の名は
フライングマン
↑ 彼
彼はマジカントと言う所に住んでおり5人兄弟らしいですが──
「私はフライングマン、貴方の力になる、その為に生まれてきた。」
謎に主人公達に対して忠誠心があり仲間に加わります。
そしてある程度ダメージを負うとあっさり居なくなるのです。
しかし、再び彼等の住処に戻ってみると──
墓です・・・
ひっそりとお墓が建っているのです。
あからさまに亡くなった事がわかりますね。
敵は我に帰る。大人しくなる。だがこの墓だけは、何も戻らない。優しい物語の中に差し込まれる、静かな現実。だからこそ、この演出は忘れがたい。
兄弟達の台詞も泣かせます。
「兄は美しく倒れたと聞きます」
泣・・・
多くを語らず、主人公達の為に戦って死んでいき──
例え兄弟が討ち死にしても何の不満も言わず、死んだ兄弟を誇りに思う・・・
その姿に似合わず彼らは真の侍です。
見た目は鳥人間。だが魂は武士道の権化。外見で人を判断してはならないという教訓を、彼らは文字通り命を賭けて教えてくれた。
現代人が見習うべき侍──
フライングマン
しかし・・・
物語の進行上ではあまり意味の無い男・・・
フライングマン!!
僕らはその勇姿を忘れない・・・(涙)
調子に乗ってたら全員死んでしまいました・・・南無~
THE ABILITY // テレポテーションの代償
このゲームの主人公(ニンテン少年)と仲間のアナさんは、実は二人だけにしか出来ない特殊能力を持っています。
それは
テレポテーション
孫悟空でさえ習得に苦労したと言われる瞬間移動を、12歳足らずの少年少女が既に使えるとは恐ろしい世の中です・・・
鳥山明が描く地球最強の戦士が苦労して覚えた技を、小学6年生が普通に使いこなしている。ドラゴンボールの42巻分の修行が、MOTHER界では義務教育の範囲内である。
しかしこの技、一つ欠点があります。
それは──
長い助走をつけないと瞬間移動できないんです・・・
バック・トゥ・ザ・フューチャーですか?
バック・トゥ・ザ・フューチャー
ですから、瞬間移動の為には長い直線の道が必要なのです。
もし、狭い道や障害物がある道で瞬間移動を行うと──
黒こげ君
障害物に当たり、この様なみっともない姿になるのでやめましょう。
助走が足りなければ失敗。しかも結果は炭化である。科学は安全設計を重ねてきたが、超能力はまだベータ版。文明の差がここに出た。
THE WEAPON // 規格外の最強兵器イブ
ところで、どのゲームにも最強と言われるキャラが居ます。
MOTHERも例外では有りません。
そのキャラはどんな敵もほぼ一撃で倒すという・・・
まさに規格外のMOTHER最強キャラなのです・・・
さあ、そのMOTHER最強キャラ イブさんの登場です。
イブさん
先行者?
先行者
いえいえ、例え先行者が中華キャノンを放ったとしても、イブさんにかすり傷さえつけられません。
先行者。2000年代初頭のネット黎明期に一世を風靡した中国のロボット。その伝説の中華キャノンをもってしても、イブさんには通用しない。ミームと現実の間には、残酷な差がある。
見よ!この威圧感、まるで巨神兵です
巨神兵
でもこのイブさん、少ししか活躍の場がありません・・・
何故なら、仲間に加わった時は既に──
ラスボス直前だからです・・・
最強の切り札が、ラスボス直前でようやく合流。まるで甲子園の決勝9回裏にワンポイントで登板するクローザーの如し。開発スタッフは彼に『遅刻の天才』という称号を与えるべきだった。
THE TRUTH // マジカントの真実
さて、MOTHERもそろそろ終盤に差し掛かってきました・・・
先ほどチラッと名前が出てきましたマジカントという場所は、実はMOTHERで一番重要な場所なのです。
マジカント
何か犬
が溺れてるみたいですが
気にしないで話を進めます
犬が溺れている。フライングマンの墓で涙した 我々は当然こう思う。「これもきっと何か深い意味が──」。ない。何もない。犬はただ溺れている。助けるコマンドもなければ、溺れた結果何かが起きるわけでもない。糸井重里、泣かせるときは容赦なく泣かせておいて、犬は平然と見殺しにする。この男の「愛」と「放置」の境界線は、我々凡人には永遠に判別できない。
マジカントにはクイーンマリーという女王が居ます。
クイーンマリー
ゲーム中はいつでもマジカントには行き来できるのですが──
世界中に散らばっている7つのメロディーを集めると──
強制的にクイーンマリーの所へ導かれます。
その時にニンテン少年はクイーンマリーから真実を知らされます。
実はクイーンマリーは○ー○(ラスボスの名)を育てた自分の曾祖母である事。
集めたメロディーは実はクイーンマリーが○ー○(ラスボスの名)の為に歌っていた子守唄であることを・・・
すべてを思い出したクイーンマリーはアイデンティティを失い──
マジカントは消滅します。
マジカントの廃墟
此処まで結構アットホームな雰囲気でゲームを進めてきたプレイヤーにとって、この出来事は結構ショッキングなんですよ。
うまく言えませんが何か切ない気分になります・・・
アットホームな RPG だと思っていた矢先に突然世界が崩壊する。糸井重里は読者を安心させてから谷底に突き落とすのが上手い。日本を代表するコピーライターの文章力が、最も残酷な形かつ全力で踏み切った瞬間である。
最後の決戦へ向かうニンテン少年達
THE FINAL // うたうコマンド
RPG ゲームの最後はラスボスとの戦いになる事が大半です。
MOTHER も例外ではありません。
それでは MOTHER のラスボス──
ギーグさんの登場です。
ギーグさん
このギーグさん、普通に攻撃しても絶対倒せません。
しかし──
戦闘中に今まで一度も見た事がない新しいコマンドが突如出現します。
そのコマンドとは──
うたうコマンド
うたう
です。
珍しいことに MOTHER では、ラスボスを武器や魔法や腕力ではなくて──
うたう事によって倒すのです。
剣でも魔法でもなく"歌"。RPG の歴史上最も平和的で最も残酷なラスボス攻略法がここにある。
そして歌うのはニンテン少年達が世界中から集めた8つのメロディー。
そうです。
ここでかつてクイーンマリーがギーグの為に歌った子守唄をぶつけるのです。
そしてすべてのメロディーを歌い終わった後──
ギーグは去っていきます。
まさにMOTHERというタイトル通り──
ギーグは幼い頃の母の思い出に耐え切れなくなったのでしょう・・・
暴力には暴力で対抗するのがゲームの常識だった 1989 年に、MOTHER は『暴力では愛情に勝てない』という真理をたった 4 メガビットの ROM に刻み込んでみせた。
EPILOGUE // エンディングまで泣くんじゃない
そしてエンディングです。
確かこのゲームのキャッチコピーは
「エンディングまで泣くんじゃない」
だったそうですが・・・
はっきり言いましょう。
このエンディングでは──
「泣けません」
この画面の背景にスタッフロールが流れるだけです・・・(涙)
「エンディングまで泣くんじゃない」── しかし実際のエンディングは、黒背景にスタッフロールが静かに流れるだけの極めてシンプルな画面。泣くどころか、あまりの素っ気なさに乾いた笑いすら出る。だが不思議なことに、このゲームをクリアした人間の多くは、この素っ気ないスタッフロールをぼんやり眺めながら、確かな感動を覚えている。派手な演出など何もないのに、なぜか目頭が熱い。─それはきっと、MOTHER という物語の余韻が、まだプレイヤーの中で鳴り止んでいないからだ。
── 結局、泣いたのはエンディングではなかった。マジカントが消えた、あの瞬間だった ──