neomusha

ゲームとテックを、ぶった斬る。

突然マッチョマン

── 1985年、ビック東海が放った凶悪な刺客 ──

PROLOGUE // 偏差値が垂直落下する放課後

高校時代のある日、部室では延々とゲームの話で盛り上がっていました。
話の内容とはずばり「真のクソゲーとは何か」と言うくだらん内容だったと思います。
自分ら「スペランカー」や「カラテカ」などのメジャータイトルを連呼する中、一人の筋トレマニアの先輩がこう言い放ちました。

「お前ら、突然マッチョマンって知ってるか?」

勿論誰一人知っている物はいませんでしたが、その余りにもインパクトのあるタイトル名にみんな興味津々でした。

語彙力をかなぐり捨てたかのような直接的すぎるネーミング。もはやタイトルというより現象の報告である。

先輩の話は続きます。

先輩 「何かそのゲームな・・・ひ弱な主人公が突然マッチョになんねんで!」

俺ら 「何じゃそりゃ?そのままじゃ無いですか」

先輩 「そんでな、それかなりおもろいねんで」

俺ら 「うおー、一回やってみたいっすねそれ・・・」

私が「突然!マッチョマン」に心を奪われた瞬間でした。

青春の貴重な1ページでこんなタイトルに心奪われるとは。もはや「奪われた」のではない、自ら進んで「ドブに投げ捨てた」のである。

その日の帰り道、「突然!マッチョマン」を一回やってみたいという思いは募る一方でした。
翌日、速効で買いにいくもどこにも有らず。その後もあらゆる中古店を当たるが何処にも置いていませんでした。

しかし何年か後に遂に持っている奴を発見し早速交渉。その結果何とか売ってもらう事になりました。

その時のそいつの言った「ほんとにいいの?」の一言は今でも忘れられません。

まるで呪いのアイテムを押し付けるかのような念押し。友人としての最後の良心がそこに垣間見える。

早速家に帰りファミコンの電源をONにしてプレイ。

しかし・・・

5分後には静かにファミコンの電源をOFFに

率直な感想。

「カネカエセ」

購入から絶望までわずか300秒。カップ麺の出来上がりと同じ時間で夢が崩れ去った。

それ以来、「突然!マッチョマン」は物置の中に永久に封印する予定でした。

このレビューを執筆するまでは…

THE ORIGIN // 悪夢の幕開け

1988年、一本のソフトが世に放たれました。

そのゲーム名こそ、

突然!マッチョマン

この度肝を抜くタイトル名に当時の人々は驚愕し、その名を世の中に轟かせました・・・
しかし、現在でもこのゲームは別の意味でその名を轟かせています。

「伝説のクソゲー」として。

では早速勇気を出して電源を入れてみましょう。

1988年 FC ビック東海

1988年 FC ビック東海

電源を入れると突然この画面です。

既にクソゲー独特の臭いがプンプンしてますね。

タイトル画面を見ただけでプレイヤーの精神を削り取る。ある意味ではこの時点ですでに勝負は決まっていたのかもしれない。

[ DEVELOPER ]

ビック東海

一流のクソゲーメーカーとしてその名を轟かせる。
他に「ゴルゴ13 神々の黄昏」や「電撃ビックバン」と言ったクソゲーソフトが有名。

THE STORY // 強引すぎる設定

確かストーリーはこんなのだったと思います。

-- STORY --

科学者である主人公はある新薬(マッチョマックスペレー)の開発に成功。
その薬とは服用すれば人間の肉体をマッチョ化できるという代物でした。
彼は早速、隣の島へその新薬のセールスに向かいます。
しかし、飛行機が故障し、新薬をばら撒きながらある島へ墜落してしまったのです。
そこは見たことも無い生物の蠢く無人島でした・・・
さあ、果たして彼は無事この島から脱出できるのでしょうか?

明らかに強引にこじつけた様なストーリーですね(汗)
どうやら無人島に墜落してしまった科学者が島から脱出するゲームの様です。

新薬をばら撒きながら墜落という、バイオハザードも真っ青の環境破壊。セールスに向かう前に製薬倫理を学び直すべきだ。

それにしても・・・

主人公

あんた科学者だったのか・・・

どう見ても少年にしか見えませんよ。という事で、彼に少年らしいアイテムを持たせてみたところ、

カブトムシ少年

全く違和感なし。

虫取り網を持つだけで夏休みの小学生に早変わり。ホワイトラボの白衣よりカブトムシが似合う男である。

そんでもってコイツ、どうやら無人島に墜落したみたいなのですが・・・

自機をバックに記念撮影

自機をバックに記念撮影

飛行機で墜落したのに無傷です。しかもカメラ目線でにっこり笑顔までかましてますよ彼。
どうやら彼は体に似合わず相当なタフガイである事が推測されます。

背後で炎を上げる機体を前に、この満面の笑み。タフガイというよりサイコパスの領域に足を踏み入れている。

THE SUICIDE // 昆虫採集と死

でもね・・・

即死

彼は昆虫に触れた途端その生命活動を停止しました。

しかも、

death1 death2

死に方マリオと一緒。しかし笑顔は絶やさない

赤子並に弱いですよこいつ・・・見掛け倒しもいいとこです。

先ほどの墜落からの生還は一体何だったのか。鋼の肉体を持つサイコパスが一転、虫の一触れで昇天するスペランカー体質へと変貌した。

命がけの昆虫採集

命がけの昆虫採集

それともう一つ、彼は極端にジャンプ力がありません。
その為、よく谷や川に転落してしまい・・・

転落死

実は死んでます

この様な中途半端な位置で、生前と全く同じ格好のまま息絶えます。
そうです。実はこのゲーム、

転落死したときのアニメーションすら作られてません。

この辺かなりいい加減です。

開発工数削減のしわ寄せがこんな所に。彼は死の瞬間すら自己表現を許されていない。

THE MAP // クレイジーアイランド

とりあえずスタートボタンを押して始めてみます。

マップ

島のマップらしき画面

一応、島のマップらしき画面が出ました。

ん?

WELCOM

WELCOME TO THIS CRAZY ISLAND?

別にこんな島来たくて来たわけではないので歓迎されても困ります・・・
それにしてもどこかで聞いた事のあるフレーズですね。

北斗2

北斗の拳2オープニング 歌:TOM★CAT

さすがビック東海、隙がありませんな・・・

相手に許可すら取らず、一方的に歌詞をインスパイアする。あの頃特有の実に大らかな時代背景が見て取れる。

よく見るとこの島にはご丁寧にも船 まで用意されています。

どうやらこの船までたどり着ければクリアのようですね。

でもそれって・・・

無人島では無いのでは・・・

明らかに人工物ですよ・・・船は。

もう設定めちゃくちゃ・・・

・・・という風に初っ端から突っ込み所満載ですこのゲーム。

無人島に船が停泊している風景。「新薬を売る相手がいない」という絶望よりも、「先を越された同業者がいる」という営業職の悲哀が勝る瞬間だ。

THE WEAPON // 竹槍と銀玉鉄砲

なにはともあれとりあえずプレイ。

まるで緊張感の無い音楽と共に主人公登場。

少年科学者

少年科学者、再び

例の如く笑顔で登場。

先ほどと同じくどう見ても科学者には見えませんね彼。

今度は原始人にさえ見えます。手に持ってるのは竹やりですか?

と思いきや、

竹槍と思いきや

何と銃でした。

「セールスに向かった筈なのに何故銃を?」

という疑問はさて置き、とにかくこの銃が彼の唯一の武器なのです。

営業カバンではなく銃を持参するセールスマン。──彼がこれから行うのは「価格交渉」ではなく、文字通りの「命の競り合い」である。

しかもこの銃, 連射もでき結構使える武器の様です。

・・・と思いきや、何と射程距離が6メートル程しかありませんでした。

弾が消える

この後、弾が消滅します

銀球鉄砲か?

しかもこの銃、弾数がきっちりと決められています。

弾数メーター

弾数メーター

ですからやたらと打っているとすぐに弾切れを起こしてしまいます。
でも御安心ください。どんな状態でも常にポジティブな彼の事です。弾切れになってもちゃんと新たなる攻撃方法を編み出してくれます。

銃の設計ミスを自らの機転でカバーする。さすがは天才科学者、と言いたいところだが。

THE MELEE // 天才的発想

弾切れになった時の彼の攻撃方法。

上段の構え

上段の構え

まず銃を上段に構えて敵まで接近。

常に笑顔を絶やさない彼もこのときばかりは真剣な面持ちです。

そして・・・

面!

面!面!面!

さすが天才科学者、発想が常人離れしています。
銃の使用法間違ってるよあんた・・・

銃床で殴るとかではなく、銃身を刀のように振り下ろす斬新な近接戦闘術。彼が科学者として取った選択は、「火薬の爆発力」よりも「自らの広背筋」だった。

THE EVOLUTION // マッチョマックスペレー

そんな風にして進んでいくと、

中ボス

中ボス現る

なにやらボスらしき生物が出現。
しかし突進してくるボスに対し、超虚弱体質の彼にはなす術もありませんでした。

瞬殺

瞬殺

彼はボスに触れた途端、あえなく生命活動を停止。今の彼はどうあがいてもボスには勝てそうもありません。
しかし彼に勝つ方法が一つだけあります。

それは自ら開発したマッチョマックスペレーなる新薬 を飲む事です。

新薬発見

何故か敵を倒した時にこの新薬は出現します。貧弱な彼もこれさえ飲めばあら不思議。

突然!

マッチョマックスペレー効果

・・・ではなくて、

突然! に変身します。

しゃくれ顎のマッチョマン

しゃくれ顎のマッチョマン

それにしてもこの顎のしゃくれ具合、あの人にそっくりですね。

猪木

何だコノヤロー

まだ何か物足りないですね。

アゴ勇

アゴ勇

正解!

科学の粋を集めた新薬の副作用が「アゴの極端な発達」である。製薬会社なら即時リコールの大惨事だ。

THE POWER // 圧倒的暴力

そして彼は再度ボスに対し素手で挑みます。何故ならマッチョマンになった彼に武装はもはや不要なのです。己の肉体こそが武器なのですから。
結果・・・

ボス撃破

アッパー2発で圧勝

何ト銃を何十発と食らってもビクともしなかったボスに、たった2発のパンチで勝利しました。

強すぎ・・・強すぎるよアンタ。

恐るべしマッチョマックスペレー。

彼はこんな危ない代物をセールスしに行ったそうですが、相手のバイヤーが誰か非常に気になる所です。

生体兵器レベルの劇薬を単身で売り歩くセールスマン。もはや彼は世界を裏から操る闇のブローカーとしか思えない。

さらにマッチョマンになると、度肝を抜く必殺技が使えるようになります。その必殺技とは・・・

マッチョビーム

マッチョビーム(仮名)

もはや何でもありですこの男・・・

科学者が論文を捨て、エネルギー波という名の「物理的な熱量」に全てを賭ける。──それはアインシュタインがペンを折り、リング上でラリアットを繰り出しながら「E=mc²」を肉体で表現する如く。知性の墓場である。

蹂躙

蹂躙

その後、危険地帯はマッチョに変身し、ズンズン進んでいきます。
数々の雑魚やボス達が襲ってきますが、マッチョになった彼の敵ではありませんでした。
・・・てかマッチョ強すぎ。

THE FINAL BATTLE // さらなる不条理

そして彼はとうとう船のあるところまで到達するのでした。

船に到達

ついに船まで到達

エンディングか?と思いきや・・・

宇宙人

唐突な侵略者

何の伏線も無く宇宙人登場.

いきなり攻撃を仕掛けてきます。
「あんたどっから来たの?」という疑問はあえて置いといて、とりあえずこっちもマッチョになり反撃開始。

対宇宙人

空中でマッチョビームを放つ主人公

そして・・

マッチョパワーの前には宇宙人ですら無力でした。

宇宙人敗北

宇宙人、あえなく退散。マッチョマン余裕で勝利。

あんた最強・・・

生物の進化の頂点に君臨するかに見えた宇宙人すら、地球の一介の製薬セールスの暴力には勝てなかった。例えるなら、数式を解き明かすスーパーコンピューターが、酔っ払った土木作業員のトンカチで粉砕されるような無慈悲な結末だ。

EPILOGUE // 大団円と謎

さあ、この後は待ちに待ったエンディングです。

エンディング開始

怪しい光に包まれる主人公

何やら怪しい光に包まれる主人公。・・・と思ったら、

祝祭

船の上での謎の祝祭

今度は船の上まで瞬間移動しました。後ろには何故か花火が上っていますね。
どうやらこの船、花火の自動発火装置まで付いていたようです。
もちろん、誰が付けたのかは今もって不明です。

突発的にも程がある舞台装置。──もはや「伏線」という概念は存在しない。あるのは、開発者の「そろそろ終わらせたい」という、隠しきれない焦燥感だけである

さよなら

無人島を去る主人公

スタッフロールが流れていますね。

そしてこの顔である。

満面の笑み

満面の笑み

今までに無いくらいの爽やかな顔です。

島一つ制圧し、新薬をばらまき、宇宙人の尊厳まで破壊した男が浮かべる至高の作り笑顔である。

闇へ

船は闇の中に消えていきました。その後、彼が何処へ向かったのかは誰にも解りません。

不均衡地帯

「彼の不思議な体験は、決して白昼夢などではなかった。
この島は、世界のどこかに実在する『アンバランス・ゾーン(不均衡地帯)』なのだから……。 完」

最後にこのような言葉で強引に締め括られこのゲームは幕を閉じます。
しかし、このゲームをクリアした人なら誰もが突っ込む事でしょう。

このゲーム自体がアンバランスだと

島がどこにあろうと知ったことではない。この『END』という文字は、物語の終わりではなく、我々の忍耐が限界を迎えたという死亡診断書に他ならない。
科学者という名の、知性の皮を被った暴力の化身。彼が島から持ち帰ったのは、巨額の契約書ではなく、ただの『心地よい筋肉痛』だけだった。

突然終了